
「みどり」づくりはまちづくり
阪神園芸は、多くの人に利用される公園や商業施設に「みどり」を通じて、“賑わいの場”を創出することに力を入れている。今回取材で訪れた「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」はその象徴的なプロジェクトだ。
発達した地下街とつながるこの施設は、低層部は阪神百貨店、高層部はオフィスフロアで構成される。もともとこの場所にあった大阪神ビルディングと新阪急ビルを解体し、阪急阪神として一体的に建て替えたこの工事は、2022年のグランドオープンまで10年以上かかった一大プロジェクトだ。
阪神園芸はこのプロジェクトにおいて計画段階から携わり、設計・工事、完成後のメンテナンス、そして「梅一グリーンプロジェクト」と銘打った「みどり」を通じた街の活性化にも取り組んでいる。
「梅一グリーンプロジェクトは、当社と一般社団法人梅田一丁目エリアマネジメント、兵庫県立大学大学院、兵庫県立淡路景観園芸学校が中心となって、大阪梅田ツインタワーズ・サウスの『みどり』を核として、その素晴らしさに気付いてもらって、都市のまちづくりや地域の連携につなげていく活動です。『みどり』が充実し、適切に管理されている空間には、自然と人や生き物が集い、そこに交流や賑わいが生まれ、施設や地区の価値の向上につながっていくと思っています。」そう話すのは、阪神園芸 造園本部施設管理部の菊川楓月さんだ。「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」に常駐し、壁面や屋上、敷地内の「みどり」の維持管理を日々行っている。
しかし、梅田一丁目一番地という都市のど真ん中で、このような「みどり」豊かな空間を実現するには、相当な苦労や努力があったと言う。
「この施設の樹木は、地域ゆかりの六甲山系、淀川水系の種類の中から選んでいます。ただそういった自然の樹が、この都市環境に馴染むのかどうか、馴染んだとしても生育するかどうか、灌水はどうするかなど、工事に先んじて色々な実験をして、そして失敗を繰り返しました。」と菊川さん。
壁にあるプランターの数はなんと487個!色々な実験をパスした樹種で構成され、またその内部の土壌について、水分量、養分量を常時監視し、異常があったときはアラートを発信、遠隔で操作できるシステムも開発したそう。阪神園芸のこれまでの経験値に加え、失敗を繰り返した実験があってこそ、実現できた特殊緑化と言えるだろう。


すべての「いきもの」にとって
心地良い“都会のオアシス”
「私が虫や鳥が大好きなこともありますが、どんな生き物がくるか注意深く観察し、メモや写真撮影をしています。ここでは計画時から飛んできてほしい鳥や蝶々を目標として決めて樹種配置もしていまして、例えば屋上広場で頻繁に見かけるアオスジアゲハは、街路樹のクスノキから壁面のプランターの樹木を伝ってこの屋上にやってきます。アオスジアゲハはオープン当初から来てくれていましたが、その後2年間ずっとどんな生き物が来るかモニタリングをしていまして、なかには大阪府のレッドリストに載っている希少種も見かけたこともあるんです。」と菊川さん。日々の観察で見つけた生き物を撮影し、SNSで発信するのも彼女の仕事の一つだ。
また、オフィス棟の南側地上部に「みどりのコンシェルジュSTATION」という展示ブースを設置し、菊川さんたちガーデナーが実際に使う仕事道具を展示して仕事ぶりを見ていただいたり、気温などの「みどり」のもたらす環境効果を可視化したり、情報発信の場として活用しているそう。
「実はこの植栽の実験中はまだ学生でした。大学の研究生の一人として実験に参加していたんです。それがきっかけで阪神園芸に入社して、植栽工事にも携わり、メンテナンスも担当させてもらえることになり、すごく責任の大きさを感じましたが、思い出ある大阪梅田ツインタワーズ・サウスにずっと関わることができる!と嬉しかったのを覚えています。」と彼女は笑う。
「季節によって色々な花が咲いたり、紅葉したり、都市にいながら『みどり』で四季を感じてもらえるよう樹木は選んでいますが、それも元気に育っているからこそ。設計時点でしっかり実験し環境を整えていますが、しっかりと手入れもしていきたいと思っています。最近は手入れの最中に声をかけてくださる方も増えました。なかには“きれいに咲いたね”と言ってくださる方もいて、そんな言葉を聞くと、ここで仕事ができてよかったなと思います。」。

大阪府レッドリストに載っているトンボ「サラサヤンマ」や
鳥「センダイムシクイ」を見かけることも。

イキイキとした「みどり」と
「ひと」がまちをつくる
施設の竣工から2年、「みどり」を通じた梅田のまちづくりはどのように進化を遂げていったのだろうか?計画に携わっていた阪神園芸FM事業部の野田修太郎さんに話を聞いた。
「もともと梅田の街はJR、私鉄、地下鉄の7駅が集中するため、人々の乗り換え動線として地下街が発達し、梅田は地下のダンジョンと呼ばれるようになりました。それもあって以前は地上階の利用者が少なくて、当然樹木に触れる機会も多くなく、関心も少なかったと思います。」と当時を振り返ります。施設の開発が進むにつれ、ビル同士をつなぐ歩行者デッキも開通し、少しずつ地上を歩く人も増えてきたという。この2年、阪神園芸でも「みどり」を通じたまちづくりを目指し、壁面・屋上緑化、ビル近辺の植栽展開、日々の管理に取り組んできた。
「『みどり』って普段は意識をしていないと見逃してしまうんですよね。でも、あることで潜在的な癒やしにつながる。知らず知らずのうちに影響を与えていると思います。」と野田さん。


「開業後はビルのオフィスワーカーをターゲットに、苔テラリウムづくりをはじめとした『みどり』のワークショップを定期的に開催しました。まずはみなさんのデスク周りから“『みどり』に親しんでいただく”というのがスタートライン。少しずつ参加者も増えていて、今では抽選しないといけないくらいの人気イベントになっています。」と話します。
まずはデスクの上に「みどり」を…とスタートした2年前。コンクリートジャングルだった梅田に梅雨を告げる紫陽花が咲き、夏には木陰ができた。ふと周りを見渡すと木漏れ日の下で会話を楽しむカップルやベンチで休憩するワーカーの姿。知らず知らずのうちに、街行く人のすぐそばで、癒しを与えてくれる「みどり」。そんな阪神園芸の目立たない取り組みが、少しずつ梅田の街に変化をもたらしている。


