土も生きている

阪神甲子園球場のグラウンド整備を担当しております、阪神園芸のグラウンドキーパーです。
阪神甲子園球場では一見相反すると思われる、水はけが良く、水持ちの良い状態が保たれています。

1.水はけが良いこと

img01野球場というのはピッチャーマウンドを頂点に内外野周囲のフェンスに向かって勾配が取られているのが大半です。その勾配がいつも均等に保たれて表面排水が効率良く出来ているというのが「水はけの良さ」の大きな要因であると考えられます。野球で一試合でもグラウンドを使うとあらゆるところにでこぼこや不陸が出来るものです。特にベース周辺はスライディング等により土が盛り上がっていきます。それを毎試合ごとにその勾配を把握したうえでグラウンドの土をもとに戻すためトンボと呼ばれる道具を使って均していきます。最近はグラウンド整備の機械も便利なものが多くありますが、今でも一番大事なのは人間の目と手で触るトンボによる不陸整正なのです。私たちは機械による作業はあくまで人と時間の簡素化と美観的要素のためであって、本当の意味でのグラウンド整備は手作業によるものだと考えています。こういった方法で 私たちは表面排水の効率化を図っています。

2.吸水性が良いこと

img02土が降った雨を吸い込む水分量が多いほど水溜りが出来にくいということです。グラウンドの表面(2~3cm)は野球などで使用したり整備で手を加えることで、適度な硬度を保っていますが、その下は土壌がコンクリートのように固まってしまってるという状態がほとんどです。実際にコンクリートの上に2cm厚の土を置いて一時間に2~3mmの雨に当てたと想像して下さい。泥のようになるのは容易に想像できますね。これを乾かすには、相当な時間がかかります。これが厚み30cmくらいで野球に適した硬さの土に更に勾配をつけて雨に当てたと想像して下さい。それに強く水を当てる(大雨)とほとんどの水が表面を流れて行き、弱く水を当てる(弱い雨)とじんわりと染み込んで行きます。つまり強い雨だと表面を流れるので先程述べました表面排水で対応出来ますが、弱い雨が土全体に染み込んで飽和状態になるとグラウンドはドロドロになって使えなくなってしまいます。しかし現実的には弱い雨が100mmも降り続けることはありません。したがって30cmの土の厚みが雨をしっかりと吸収することによって、グラウンドの水が飽和状態になるのを防いでいるのです。

この吸水性は真夏にグラウンドを散水する際にも効果があります。グラウンドがカラカラに乾いた状態の時に散水をするのですが、この状態であればしっかりと水を含んでくれるので水持ちもよくなります。水はけのいいグラウンドと水持ちのいいグラウンド、一見相反するこの状態が甲子園球場では保たれているのです。
このように水はけが良く、吸水性が良いことがいいグラウンドの条件ですが、広いグラウンドを常に均一な勾配に保ち、土の厚みを理想通りの状態に維持することが私たちグラウンドキーパーの使命なのです。

3.イレギュラーが少ないこと

まずイレギュラーはなぜ起こるのか?グラウンドに誰の足跡もなく平らに整備されていればまずイレギュラーは起こりません。イレギュラーの9割以上は選手の付けたスパイク跡が原因だと考えられます。その理屈からいくと、どこの野球場であれプレーする人数やイニングは全て同じですから、イレギュラーも同じように起こる可能性があるのですが、甲子園球場のイレギュラーが少ないのは土の弾力性にその要因があります。弾力性というのは単なる表面の軟らかさではなく、土の厚み全体の弾力性という意味です。

例えば、砂浜で野球をしたとしましょう。ゴロが飛んで捕球する際に野手の前がどれだけスパイクで荒らされていても、ボールが大きく跳ねるイレギュラーが起こるとは考えられませんね。逆に運動靴等で多くの生徒に踏み締め固められた学校の校庭で野球をすると、野手の前のスパイクで荒らされた穴にボールが当たるとボールがイレギュラーする可能性はかなり高いですよね?イレギュラーが起こらないようにするには、砂浜のような何十cmも厚みがあって軟らかいフィールドが理想ですが、走るのに支障がある。走るのに適したフィールドだとイレギュラーが起こりやすい・・この相反するフィールドを実現化したのが甲子園球場の内野フィールドなのです。

img03甲子園球場の内野フィールドには黒い土が使われているのはご存知だと思います。これが黒土だけだと細か過ぎるので固まりすぎて校庭のような状態になってしまいます。そこで黒土と砂をおよそ半分づつ(実際には時期によって少しづつ割合は変わりますが)混合したものを約30cmの厚みで敷き均しています。この混合土と30cmの厚みを使って表面の2~3cmは野球のプレイに支障のない硬さ(軟らかさ)にし、その下の20~25cmに弾力性を持たせることで、イレギュラーの可能性が減るという仕組みになる訳です。

実際の整備方法としましては、甲子園球場では野球等イベントのない1月から2月末にかけて内野フィールド部分全体を約25cm前後、耕運機で畑のように掘り起こした後、ゆっくりと転圧しながら理想の「弾力性のある土」に仕上げて行きます。気象条件は毎年変わりますから、その年によって出来栄えが微妙に異なる場合がありますし、仕上がってからの使用状況や期間で状態が違って来ます。まさに「土も生きている」と言うことですね。

以上がグラウンドキーパーの考える良いグラウンドの条件なのですが、私たち甲子園球場のグラウンドキーパーの中でも経験を積んだ者がグラウンド状態に応じた整備方法を的確に判断し慎重に作業をする結果、このようなグラウンド状態を保てているのです。

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